
Interview vol.1
創業のきっかけと「人間レンタル屋」が生まれるまで

Profile
株式会社ファミリーロマンス 代表取締役
1981年東京都出身。家族代行サービスなどを行う『ファミリーロマンス』を立ち上げた人間レンタル屋のパイオニア的存在。企業のスローガン『本物以上の喜びを』を理念に、現代社会と代行依頼者の心理についての分析・発信を日々行っている。

こんにちは。石井裕一です。1981年東京都出身です。
家族代行サービスなどを行う『ファミリーロマンス』を立ち上げた人間レンタル屋のパイオニア的存在と言われています。私は企業のスローガンでもある『本物以上の喜びを』を理念に、現代社会と代行依頼者の心理についての分析・発信を日々行っています。
現在、全国に4,500名以上のスタッフを抱え、月間約500件のご依頼をいただいています。私自身も現場に立ち続けており、レンタル父親として23家族、計35人の子供たちから「お父さん」と呼ばれています。


20歳〜23歳までは<strong>介護福祉士</strong>として老人ホームで高齢者の生活のお世話をしていました。元々、人とコミュニケーションを取ることは得意だったので自分に向いていると思った職業です。
この経験は、今の仕事に大きく活きています。高齢者の方々と接する中で、「人の心に寄り添うこと」「相手の立場で考えること」の大切さを学びました。
老人ホームで高齢者の生活のお世話。「人の心に寄り添うこと」「相手の立場で考えること」の大切さを学ぶ。
芸能事務所に所属し、テレビドラマ・映画・CM・雑誌モデルなどを担当。「役を演じる」経験が後の代行業務の根幹に。
営業ノウハウ・マネージメント・経営学を学ぶ。マーケティングや顧客心理の理解が事業構築に直結。
飲食店、イベントスタッフ、引っ越し、警備員、工事現場、コールセンターなど。あらゆる「役柄」を理解する基盤に。
今の自分は、この時経験した沢山のビジネス、沢山の人との出会いが現在のバックボーンとなっています。100種類以上の職業を経験したからこそ、あらゆる「役柄」を理解し、スタッフに的確な指導ができるのだと思います。

ファミリーロマンスは2009年に設立しましたが、そのきっかけは<strong>2004年、私が24歳の時</strong>に遡ります。
シングルマザーとして4歳の息子を育てている女性の友人から、ある相談を受けました。彼女は息子を私立幼稚園に入園させたいと願っていましたが、「シングルマザーである」というだけで<strong>書類審査の段階で門前払いされてしまう</strong>現実に直面していたのです。
「息子の将来のために、少しでも良い教育環境を与えたい」——母親としての切実な願いでした。しかし、社会は彼女の願いを、形式だけで拒絶したのです。
私は彼女から悩み相談を受け、その女性の夫として、その息子の父親として、一緒に受験に挑戦しました。
しかし、当時は家族のことについて知識がなく、子供との信頼関係を築くことができませんでした。面接では息子が私を警戒し、自然な親子関係を演じることができなかったのです。結果は失敗となってしまいました。
この失敗は、私に大きな衝撃を与えました。「準備不足だった」「もっと子供と事前に時間を過ごすべきだった」——悔しさと反省が、後のファミリーロマンスの礎となりました。
また、その経験から、今の日本社会では<strong>核家族は当たり前のように存在しているのにも関わらず、片親というだけで受験すらチャンスがない社会</strong>に疑問を感じました。
なぜ、子供の未来が、家族の「形」によって閉ざされるのか? 母親の愛情も、子供の能力も、何も変わらない。変わるのは、紙の上の「家族構成」だけ。その形式が、人の本質よりも優先されてしまう——この不条理に、私は強い憤りを感じました。
24歳。シングルマザーの友人から「私立幼稚園の受験で父親役を」と依頼を受ける。しかし準備不足で失敗。
5年間の準備期間。サービス設計、法的検討、「家族」を演じる技術の研究を進める。
株式会社ファミリーロマンスを設立。「社会の穴埋め」としての代行サービスを開始。
社名「ファミリーロマンス」は、精神分析学者<strong>フロイトが提唱した概念</strong>から取っています。フロイトの「家族ロマンス(Family Romance)」とは、子供が「自分にとって理想的な家族」を空想すること。現実の家族に不満を持った子供が、「本当の両親はもっと素晴らしい人たちなのではないか」と空想する心理現象を指します。
私たちは、その空想を現実にする手助けをしているのかもしれません。子供が夢見る「理想の父親」を、私たちが演じることで。
本当は、このようなサービスが存在しない社会の方が良いのです。
すべての子供が、本当の両親から愛情を受けて育つ。すべての人が、孤独を感じることなく、本当の友人や家族に囲まれて生きる——それが理想です。しかし現実には、形だけの家族を必要とする社会が存在します。私たちは、そんな人々を一人でも多く助けたい。その一心で始めた事業です。

弊社の代行サービスを通じて、顧客には<strong>自立できることを学んでほしい</strong>という目的があります。
<strong>本当は誰かの代わりになるという代行サービスなんてビジネスは存在しないほうがいいんです</strong>。しかし、今の社会はそれを必要とする時代なのです。

私達の代行サービスは、ただの代行ではないです。<strong>顧客の心のセラピーや自立に繋がるようにサービス利用中も学べるシステム</strong>になっています。
例えば、父親代行を利用されているシングルマザーの方には、こんなアドバイスをします:
「お子さんに、どうやって『お父さん』の話をしていますか?『お父さんは忙しくて、月に一度しか来られない』——そういう説明をすることで、お子さんは『父親は仕事を頑張っている』というイメージを持てます。これは、将来お子さんが仕事に対してポジティブな姿勢を持つことにつながるかもしれません」
単に「父親」を演じるだけでなく、その経験を通じて母親が子育てのヒントを得る。それが、私たちの真の価値です。
私達のサービスを通じ、お客様がこのサービスを利用しなくても自立できる時代がくることを私達は望んでおり、それを<strong>最終目標</strong>として考えています。
依頼人が自信を取り戻し、本当の人間関係を築けるようになること。代行サービスを「卒業」できる日が来ること——それが、私たちの真の成功です。
本当は、私たちのようなサービスが存在しない社会の方がいい。人々が孤立せず、本当の家族や友人に囲まれて生きられる社会。それが実現する日まで、私たちは「社会の穴埋め」を続けていきます。
石井裕一の言葉からは、深い社会への洞察と、依頼人への真摯な想いが伝わってきます。
「本当は存在しない方がいい」——自らのビジネスをそう語る経営者は、他にいないでしょう。それは、ファミリーロマンスが単なる営利企業ではなく、現代日本社会が抱える問題に真正面から向き合う「社会的企業」であることを示しています。
2004年の失敗から始まった物語は、今や月間500件の依頼を受け、4,500名のスタッフを抱える一大事業へと成長しました。しかし石井の目は、売上や規模ではなく、一人一人の依頼人の「自立」に向けられています。