
Interview vol.4 — Final
なぜ日本で成功したのか、そして私たちが目指す未来

Profile
株式会社ファミリーロマンス 代表取締役
1981年東京都出身。家族代行サービスなどを行う『ファミリーロマンス』を立ち上げた人間レンタル屋のパイオニア的存在。企業のスローガン『本物以上の喜びを』を理念に、現代社会と代行依頼者の心理についての分析・発信を日々行っている。

フランスには、こうしたサービスを行う会社は存在しません。しかし日本では、ファミリーロマンスは月間500件の依頼を受けるまでに成長しました。その理由を、3つの観点から説明します。
日本では年間約25万組が離婚しており、<strong>2分に1組が離婚する計算</strong>になります。かつての日本は、祖父母・両親・子供の「三世代同居」が一般的でした。しかし高度経済成長期以降、核家族化が進み、さらに現在は単身世帯が急増しています。<strong>「家族」という概念そのものが、大きく変容している</strong>のです。
日本人は「他者からどう見られるか」を非常に気にします。
欧米では個人主義が強く、「他人は他人、自分は自分」という意識が強い。しかし日本では、「周りと同じでないと不安」「人と違うことが恥ずかしい」という集団主義的な価値観が根強く残っています。
ITの発展により、人と直接会わなくても生活できるようになりました。
便利さと引き換えに、<strong>人間関係を構築する機会と能力が低下</strong>しています。「友人の作り方が分からない」「職場の人間関係が希薄」「恋人ができない」——これは現代日本の深刻な社会問題です。
私たちのサービスは、「社会の穴」を埋める存在です。
本来あるべき人間関係が欠落した場所に、私たちが入り込む。それは、現代日本社会の縮図とも言えるでしょう。

日本では現在、法的に<strong>同性婚が認められていません</strong>。社会的な受容度も、地域や世代によって大きく異なります。
職場や親族にカミングアウトできず、異性のパートナーを同伴する必要がある場面で、弊社のサービスを利用される方がいらっしゃいます。
• 会社の忘年会に「彼女」を連れて行く同性愛者の男性
• 親族の結婚式に「彼氏」を同伴する同性愛者の女性
• 両親に紹介するための「婚約者」を依頼する方
これは確かに、<strong>日本社会が多様な愛の形を完全には受け入れていない現実</strong>を映し出しています。しかし私は、彼らを「嘘をついている」とは思いません。彼らは、<strong>社会の不寛容から自分を守っている</strong>のです。
理想は、すべての人が自分らしく生きられる社会です。しかし現実が追いつくまで、私たちは彼らの「盾」になります。
日本社会には、ある年齢を過ぎて独身でいること、友人が少ないことへの<strong>暗黙のプレッシャー</strong>が存在します。「結婚しないの?」「友達いないの?」「休日は何してるの?」——こうした質問の背後には「結婚していることが普通」「友達がたくさんいることが普通」という価値観があります。
しかし、ここで重要なのは、依頼人の多くが単に「恥ずかしいから隠したい」だけではないということです。
妻を亡くし、精神的に追い詰められた60代の男性が、妻や娘をレンタルすることで心の治療を行う。人間関係に傷つき、他者との関わりを避けてきた人が、代行スタッフとの「安全な関係」の中で、再び人を信じる練習をする。
<strong>弊社のサービスには、こうした「心のリハビリ」としての側面</strong>があるのです。カウンセリングに通うのは抵抗があるが、「家族レンタル」なら気軽に利用できる——そういう方も多いです。
私たちのサービスが必要とされているという事実自体が、日本社会の問題を「可視化」しています。
これらの問題を解決するのは、私たちの仕事ではありません。しかし、問題が存在することを示し続けることで、社会が変わるきっかけになればと思っています。

SNSの普及は、私たちの事業に確実に影響を与えました。象徴的なのが<strong>「リア充アピール代行」</strong>というサービスです。SNSに投稿するための「充実した日常」を演出してほしい——
これらを撮影するために、スタッフが「友人」や「恋人」として同行します。
これは現代社会の「承認欲求」の象徴です。SNS上で「いいね」をもらうことで、自分の存在価値を確認したい。実際の人間関係は希薄でも、オンライン上では「リア充」でありたい——この矛盾は、SNS時代ならではの現象です。
「友達は少ないけど、SNSでは人気者に見られたい。『いいね』の数が自分の価値を決めるような気がして...」
— 20代女性の依頼人
興味深いのは、このサービスを通じて「写真の撮り方」や「SNS映え」のコツを伝授することで、<strong>依頼人が自立できるようサポート</strong>している点です。
「この角度で撮ると綺麗に見えますよ」
「この時間帯の光が一番いいですよ」
「このハッシュタグを使うと『いいね』が増えますよ」
代行に依存するのではなく、スキルを身につけて卒業してもらう。それが私たちの方針です。
また、SNSは弊社の認知度向上にも貢献しました。私自身もTwitterで日々発信しており、フォロワーは<strong>10万人を超えています</strong>。それがきっかけで依頼される方も多いです。
かつてはタブー視されていた代行サービスが、SNSによって可視化され、<strong>利用のハードルが下がった</strong>と言えるでしょう。「こんなサービスがあるんだ!」「自分だけじゃないんだ」——SNSを通じて、多くの人が私たちのサービスを知り、救われています。

最終的に、私たちが目指しているのは、依頼人の「自立」です。弊社のサービスを通じて心が癒され、自信を取り戻し、本当の人間関係を築けるようになること。<strong>代行サービスを「卒業」できる日が来ること</strong>——それが、私たちの真の成功です。
実際に、私たちのサービスを「卒業」した方々がいます。
5年間、レンタル父親を利用していたシングルマザーの方が、本当のパートナーと出会い、再婚されました。
"石井さんのおかげで、子育ての自信がつきました。そして、もう一度誰かを信じる勇気が持てました"
2年間、友達代行を利用していた20代の男性が、趣味のサークルで本当の友人を作りました。
"石井さんのスタッフと話すことで、コミュニケーションの練習ができました。今は本当の友達がいます"
3年間、レンタル彼女を利用していた女性が、家族にカミングアウトできました。
"最初は家族に拒絶されましたが、時間をかけて理解してもらえました。もう嘘をつかなくていい人生を生きられます"
本当は、私たちのようなサービスが存在しない社会の方がいい。
—すべての家族形態が認められる社会
—独身でも孤独でも、誰も非難しない社会
—同性愛者が堂々と生きられる社会
—本当の人間関係に囲まれて生きられる社会
それが実現する日まで、私たちは「社会の穴埋め」を続けていきます。
私たちのサービスの存在自体が、社会に問いかけています。
「なぜ、家族をレンタルしなければならない社会なのか?」
「なぜ、友達を買わなければならない若者がいるのか?」
「なぜ、同性愛者が嘘をつかなければならないのか?」
この問いに、社会が答える日が来ることを願っています。

現在、月間500件の依頼をいただいていますが、潜在的な需要はもっと大きいと考えています。
しかし、拡大だけが目的ではありません。
スタッフの教育、マニュアルの整備、トラブル防止——規模が大きくなっても、サービスの質を維持することが最優先です。一人一人の依頼人に、真心を込めたサービスを提供し続ける。それが、ファミリーロマンスの使命です。
私たちは、単なるビジネスではなく、<strong>社会問題を可視化する存在</strong>でありたいと思っています。メディア出演、講演、書籍出版——様々な場で、現代社会の問題を発信し続けます。
いつか、私自身が第一線を退く日が来ます。その時、ファミリーロマンスの理念を引き継いでくれる人材を育てることも、重要な使命です。
「本物以上の喜びを」という理念を、次世代に伝えていきたいと思っています。
4回にわたるインタビューを通じて、石井裕一という人物、そしてファミリーロマンスという企業の全貌が見えてきました。
単なる「代行サービス」ではなく、現代日本社会が抱える孤独、差別、世間体というプレッシャーに真正面から向き合う「社会的企業」。そして、依頼人の「自立」を最終目標に掲げ、いつか自分たちのサービスが必要なくなる日を夢見る——そんな矛盾を抱えながらも、日々真摯にサービスを提供し続ける石井裕一の姿勢。
「本当は、私たちのようなサービスが存在しない社会の方がいい」
——この言葉こそが、ファミリーロマンスの本質を表しています。